CoderDojoの故郷を訪ねて(3)〜James Whelton氏、取材〜

ダブリン最後の夜、CoderDojo創始者の一人であるJames Wheltonさんが指定した場所、O’Neill’s Victorian Pub and Townhouseへ向かいました。

O’Neill’sという飲食店はいろいろあるようで、その日のお昼を食べたM.J.O’Neill’sとは別の店でした。観光客で賑わう中心地から少し離れた所にあり、地元っ子が通うパブのようです。Jamesさんお気に入りの店で、CoderDojo関係の打合せがあると「アフターパーティー」によく使うそうです。

O’Neill’s Victorian Pub and Townhouse

雨が降り出して傘を取りに部屋へ戻ったりして、約束の時間に少し遅れてしまいました。写真だけでJamesさんを見つけられるか不安でしたが、律儀に「入口を入って真正面に僕は座っています」とメールをくださいました。

Jamesさんは既に何か飲み物を飲んでいて、私たちはそれぞれギネスをゲットしてから、奥の席に移動してお話を始めました。
「この後、友達と会って、それからジムへ行って走るので、8時には失礼しますね」
高校生の頃から有名なハッカーでCoderDojo創始者というから、いわゆるオタクっぽいルックスを想像していたのですが、お会いしてみると爽やかな好青年で、いわゆる「リア充」な感じでした。(註:どちらも私の偏見です。ごめんなさい)

–CoderDojoは日本でも大人気ですよ!「道場」「忍者」といったコンセプトが日本の子どもたちにも親しみやすいみたい。

「そうでしょう!子どもたちがプログラミングを学ぶコミュニティを作ろうと最初にネーミングをどうしようか悩んで、まず『教室』とか『学校』は絶対イヤだ、『クラブ』も『キャンプ』もありきたりでつまらない・・・僕は小さい頃から伊賀忍者に憧れて、剣道とか他にも武道を色々やっていて、Bill(註:CoderDojo共同創始者のBill Liao氏)もそういう世界が好きだったので、じゃあ『道場』にしよう、と決まったのがオープンの1週間前でした」

–そもそもCoderDojoを始めたのは、どうして?

「僕はとても小さい頃からコンピューターに興味があって、9歳の頃にはプログラミングをしていました。高校生になる頃には、勉強はできなかったけど、プログラミングができるやつとして一目置かれていました。学校にはコンピューター部がなかったのですが、僕は個人でコンテストなどにも出ていたので、学校内や、他の学校からも、プログラミングを学びたい生徒たちから教えてほしいと頼まれるようになりました。そういう子たちの助けになるように、クラブを立ち上げようと思ったのです」

–Billさんとは、どうやって出会ったのですか?

「そういうコンテストの会場で出会って、その時は10秒間ほど会話しただけでしたが、Eメールを交わすうちに、僕はコークに住んでいたのですが、Billはオーストラリア国籍だけどアイルランドではコークで活動していて、ではコークで会いましょう、ということになりました。Billは忙しいので、駅で乗り継ぎのタイミングで待ち合わせて、僕は姉に車で駅まで送ってもらったのですが、喘息の発作を起こしてしまい、Billに会った時は大変な状態。そうしたら、Billも喘息持ちで吸入器を持っていて、それを貸してくれました。Billとの初めてのミーティングは、そんなです(笑)」

–ドラマチックですね!

「僕が立ち上げようとしていたクラブの話をすると、Billが、それは学校内だけの活動ではなく、もっと広げるべきだと言ってくれて、それがCoderDojoの始まりだったのです。こんな世界的な規模になるとは、その時は思いませんでした」

–あなたにとって、CoderDojoのポリシーとか、ビジョンは?

「まず、楽しいこと!アイルランドの大学にはコンピューター・サイエンスの学科があるけど、入学しても卒業できるのは4分の1ぐらい。難しすぎるし、面白くない。単位を落とすと再履修は有料になるので、みんなドロップアウトしてしまうのです。僕は子どもたちに、まず、プログラミングの楽しさを知ってほしい!
それから、日本でもそうかもしれないけど、プログラミングを学ぶ目的がIT業界での就職か起業だと思っている人たちが多いのです。僕はそれをもったいないことだと思います。CoderDojoの女の子で、両親が養蜂家を営んでいるという子がいました。彼女はプログラミングを学んで、両親のために養蜂に役立つアプリを開発したのです。そのように、プログラミングはそれ自体が目的ではなくて、社会に役立つツールだと思います。プログラミングを学ぶことで社会とつながることができます。だからもっと、CoderDojoで学んだ子たちが、公共とか、農業、漁業・・・いろんな他の産業に就職して、そこでスキルを活かして社会変革をしていってくれることを期待します」

–素晴らしい!それは私たちがやってきたPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)の考え方と一致します。

「僕からも質問させてください。CoderDojo品川御殿山は、どういう道場?他の道場と違う特色は?」

–CoderDojoは地域との繋がりが大きなメリットだと思います。一方で、では場所がないとできないのかというと、決してそんなことはないでしょう。インターネットの草創期から、プログラミングを学びたいと思ったら、学校に通わなくても、ネットの世界に先生や仲間はたくさんいました。CoderDojo品川御殿山は、場所を提供してくださる支援者のおかげで無事キックオフしましたが、将来的にはオンラインでも参加できる道場にしたいですね。

「そう、僕もネット上で学んだことがたくさんあります。でも、ちょっと怖い面もあります。ネット上で知り合った仲間の何人かは、違法なハッキングをして逮捕された者もいます。もちろん社会的に良い活動をしている仲間もいっぱいいますけどね」

–常にリスクとは背中合わせですね。子どもたちが間違った方向に行かないためにも、CoderDojoは月一回とか隔月とか顔を合わせる時だけでなく、もっと継続的に子どもたちを見てあげることができれば、危険信号も早めにキャッチできると思うのです。危険だからとあれこれ禁止するよりも。そのために必要なのは日々の学習記録。一堂に集まるのはたまにでも、記録さえきちんとフォローできていれば大丈夫だと思います。

「大賛成!ぜひこれからもCoderDojo品川御殿山の様子を知らせてください」

ここで、Jamesさんからもビデオ・メッセージを頂戴しました!

「カメラの前で喋るのは緊張しますね(笑)。アイルランドはどうですか?楽しみましたか?」

–もちろん!豊かな自然、温かい人々、そして、美味しい食とお酒!ギネスは日本でも飲めるけど、本場のは全然違いますね!

「そうでしょう!日本で初めてCoderDojoを立ち上げた時、Ross(註:CoderDojo FoundationのCommunity Lead担当Ross O’Neillさん)が日本のアイリッシュ・パブに行ってみたいと言って打ち上げをアイリッシュ・パブでやって、みんなでギネスで乾杯したのです。そうしたらそれが慣わしになってしまったみたいで、CoderDojoの打ち上げの度にギネスで乾杯している写真が日本から送られてくる・・・Rossのせいだ!(笑)」

–Jamesさん、今は何をしていらっしゃるのですか?

「18歳でCoderDojoを始めて、21歳の時、これも全く偶然だったのですが、アメリカ西海岸の友だちの家に滞在中に、たまたま来ていた中東の会社の人と知り合って、ドバイにある本社のCTOをやってみないかと誘われました。21歳の若造がいきなりCTOなんて、みんなびっくりしたでしょうね。そこで3年ちょっと働いてきたのですが、今はギャップ・イヤーです。18歳からずっと走り続けてきたので、少し立ち止まってこれからのことを考えているところです。
この10月から日本に行きますよ。日本語も勉強しながら、日本でいろんな所へ行ってみます。東京、箱根、飛騨高山、奈良・・・他にどこかお勧めがありますか?来年2月には東京マラソンにもエントリーしています」

–すごい!

ということで、Jamesさんには近いうちに東京で再会できそうです。

CoderDojoの故郷を訪ねて(2)〜CoderDojo Foundationを訪問〜

いよいよ来ました、アイルランドの首都ダブリン!ロンドンのヒースロー空港からエアリンガス航空で約1時間ほど。入国の際は「EU外パスポート所持者」の列に並び、パスポートには最大90日間有効の緑色のスタンプが押されます。以前は何もなしで国内並みだったそうです。ちなみに帰りは何もしないでヒースローで荷物だけ受け取って出られます。

前回の準備編で書いた通り、9月3日(月)午後2時、CoderDojo Foundationを訪問しました。Foundationのオフィスが入っているDogpatch Labsは、ダブリンの街を通ってダブリン湾に注ぐリフィー川の北岸、Custom House Quayに立つCHQビルの中にあります。川の名前リフィー(Liffey)とはアイルランド語で「生命」の意味だそうです。ところでアイルランドに一歩降り立った瞬間から、道路標識をはじめ全ての表示が、まず緑色の文字のアイルランド語で書かれ、その下に英語で書かれているのです。

CHQビルでカフェやレストラン、ショッピングモール、EPIC(アイルランド移民博物館)などと並んでいるDogpatch Labsとは、日本でも最近流行りのスタートアップ・ハブ、つまり起業中だったり、これから起業する人たちが集まっている場所です。

 

Dogpatch Labs

ここの受付で「CoderDojo FoundationのAmy O’Mearaさん」と言ったら、すぐに伝わり、写真で見た通りの可愛らしい女性がニコニコと現れました。

Amyさんの案内でCoderDojo Foundationの机が並ぶスペースに行くと、ここに写っている方々がいらっしゃって、
https://coderdojo.com/foundation/
皆さんとってもフレンドリーに歓待してくださいました!

Amyさんと、Sonja Bienertさん(Senior Community Manager)とともにラウンジの席へ。CoderDojo品川御殿山を始めたばかりの私たちの疑問や不安に適切に答えてくださり、励ましてくださいました。この日、Foundationには大勢の女性スタッフがいて生き生きとお仕事されていたので、「いいですね。日本ではIT業界はまだまだ男性中心で、CoderDojoに来るのも男の子が多いので、女の子たちにもっともっと楽しさを伝えたい!」と言うと、Sonjaさんが激しく同意して、「一緒に頑張りましょう!」と言ってくださいました。

お二人からは、素敵なビデオ・メッセージを撮らせていただきました。CoderDojo品川御殿山の皆さんに見てもらえるのが楽しみです!

帰り際、「ちょっと待ってて」とAmyさん。しばらくすると、「お土産に」とCoderDojoのステッカーやネームタグを持って来てくれました。これも、CoderDojo品川御殿山の皆さんにお分けしますね。

 

CoderDojoの故郷を訪ねて(1)〜準備編〜

今回、イギリス・アイルランド出張の機会を利用して、CoderDojo発祥の地で関係者に会ってくる、という企画を立てました。

ダブリン空港

まずはアポイントを取る、の巻です。

ダブリンにあるCoderDojo FoundationのAmy O’Mearaさん(Community Support and Experience担当)は、先月のCoderDojo品川御殿山キックオフ直前に受けたウェブ・コールによるオリエンテーションでとっても親切で感じよかったので、勇気を出して「Foundationのオフィスを訪問したい」とメールしてみました。

二つ返事でOK!9月3日(月)午後3時に訪問することになりました。

また、今回の出張ではダブリンの他にコークも予定に入っていましたが、コークはCoderDojo発祥の地です。2011年、コークの高校生だったJames Whelton君が、自分の通う高校にパソコン部がなかったので作ろうと思い立ち、社会起業家のBill Liao氏とともに始めたのがCoderDojo第一号。それが世界中に広まったのです。

今は26際になっているJamesさんは、ドバイを拠点に世界を飛び回っているようで、私たちの短い滞在期間中に会うのは難しいかなと思いましたが、メールアドレスがわかったのでダメ元で「コークかダブリンで会いたい」とメールしてみました。

またしても快諾いただき、コークに着く日にDukesというコーヒー店でお会いすることになりました。

 

ユニバーシティ・カレッジ・コークの門

その後、彼のスケジュールが変更になり、面談はキャンセルか!?と落胆しかけましたが、なんと見ず知らずの日本人のためにあれこれと策を練ってくださり、私たちがアイルランドを発つ前夜の9月11日(火)夜、ダブリンのパブで一杯ということになりました!

もう一人の創始者Bill Liao氏にも、彼が所属するSOSVの広報を通じて面会を申し込んだところ、秘書の方からご連絡いただき、コークで開かれるCoderDojoにBillも来るので、と誘われたり、それが日程的に無理とわかると、Billの移動中に駅かその周辺ではどうかなど、いろいろ画策してくださいました。残念ながらどうにも日程が合わず、今回はお会いできませんでしたが、またの機会を期待しています。

そんなこんなで、アイルランド人はつくづくフランクで親切な人たちだということが、出発前にわかり、期待が膨らみました!

 

CoderDojo Shinagawa Gotenyama No.2

2018年9月29日(土)
午後4時 – 6時
場所:明蓬館 品川・御殿山SNEC(東京都品川区北品川6-7-22和田ビルディング2階)
Meihokan High School Shinagawa Gotenyama SNEC, 2F Wada Bldg., 6-7-22 Kitashinagawa, Shinagawa, Tokyo, Japan

新しい道場の2回目の活動です。初めての方も大歓迎です。
CoderDojoでは参加する子供達をNinjaと呼びます。ぜひたくさんの方に忍び込んで欲しいと思います。
これからどんなことをやりたいか、参加者みんなで一緒に考えていきます。どんどんやりたい事をおしらせください。

プログラミング初心者から上級者まで、誰でも参加大歓迎!
社会課題やSDGsについても一緒に考えましょう。

Papero iやSpheroなどのロボットも一緒にお待ちしています。
前回のキックオフでは英語の得意な方も揃いました。アイルランド発祥で
世界に拡がったCoderDojoのコンテンツはまだ日本語のものが不足しています。翻訳プロジェクトなども立ち上がりそうです。英語で社会貢献に参加したい方などもぜひご期待ください。
アイルランドのCoderDojo本部からのビデオコメント等も準備中です。

    CoderDojo Shinagawa Gotenyama Kick Off!

    2018年8月26日(日)10時〜12時。明蓬館高校のキャンパスをお借りしてCoderDojo Shinagawa Gotenyama Kick Off会を開催しました。

    夏休み中の告知でこじんまりとした会になりましたが、参加者の皆さんの声を聴きながら、様々なプロジェクトが走り出しそうな印象を受けました。

    スターウォーズのドロイド達と遊んだり、SDGsのシャツを纏った「Papero i」も特別参加!「プログラミングを通じて、地球を守りたい!」という意見もニンジャから飛び出してくれました。

    偶然、英語の得意な方々が、ボランティアにも揃っていましたので、このあたりでも何かCoderDojoコミュニティにボランティア活動できるのではという意見も出て、これからの活動が楽しみです。

    次回も近々に企画しますので、ぜひお越しください。

       

      Dojocon Japan 2018に参加して

      2018年8月25日(土)、CorderDojo JapanのイベントDojocon Japan 2018を見学してきました。

      CorderDojoでは参加しているクリエータ達をニンジャと呼んでいますが、日本全国のニンジャの活動を評価して、選ばれた5人のニンジャ達の最終発表を聴いてきました。

       

      スクラッチで作成したゲームやRPG、キネクトを使ったゲーム等、様々なアイデアで子供達の好きを追求した作品群が紹介されました。投票は参加者の一人一票、折り紙で作った手裏剣を投票ボックスに入れてきました。

      優勝者は旅行券20万円がもらえます。それを活用して昨年の優勝者はDojoConがスタートしたアイルランドでのCoolest Projectsに参加してきたそうで、その発表もありました。「英語なんかわからなくてもコードがわかれば、作品の説明はできる!」という小学生の言葉には痺れました。なんと今年の9月にも北アメリカで開催されるCoolest Projectsにも参加するそうです。小学生でいきなり国際的なデビューをしているわけですね。

      CoderDojoは世界的な動き。しかもどのDojoも上下関係があるわけではなく、対応な組織なのだそうです。またそこに参加している、チャンピオン(プロジェクト・マネージャー)、メンター(コーチ)、ニンジャ(参加者)、ボランティアについても、皆対等の関係。つまり、CoderDojoに参加した小学生、中学生、高校生はいきなり、世界デビューの道が開けるという事ですね!

      プログラミンをしている人はネクラなんていうイメージがあるかもしれませんが、CoderDojoの世界はどうやら違うようです。参加者も他のコンテストより女の子の参加率が高いように感じました。コミュニティの力がそうさせているのでしょうね。

      CoderDojo Shinagawa Gotennyamaもこのコミュニティに恥じない組織に育てていきたいと再確認しました。

       

       

      CoderDojo品川御殿山 キックオフ・セッション

      2018年8月26日
      午前10時 – 正午12時
      場所:明蓬館 品川・御殿山SNEC(東京都品川区北品川6-7-22和田ビルディング2階)
      Meihokan High School Shinagawa Gotenyama SNEC, 2F Wada Bldg., 6-7-22 Kitashinagawa, Shinagawa, Tokyo, Japan

      新しい道場なので、これからどんなことをやりたいか、参加者みんなで一緒に考えてみましょう、ということでキックオフ・セッションを開催します。
      プログラミング初心者から上級者まで、誰でも参加大歓迎!
      社会課題やSDGsについても一緒に考えましょう。